北海道 山行報告2(ヒサゴ沼まで)

8月9日(月)
早めに起き、朝日を見に再び桂月岳へ。ちょうど黒岳の切れた斜面の奥から朝日が広
大な大地を照らし始める。思わず溜め息が出てしまうほどの素晴らしい朝日に安全登山
を祈願する。
テントを撤収し、モルゲンロートの中、お鉢平を反時計周りに進む。時計周りのコー
ス、北海岳へは橋が流され徒渉を余儀なくされるとのこと。
「雲の平」と呼ばれるなだらかな登りを登っていく。ところどころ道がハイマツに覆
われた中を進む。高いハイマツは軽く背の高さを越え、まるで薮こぎしているかのよ
う。カウベルをしきりに鳴らしてしまう。傍らには朝日を受けた花が輝いている。
2,020mポコのところ手前の急な登りを詰めると、突然お鉢平という広大な火口の縁に
出る。「お鉢平展望台」の看板が立つ。ここで北海道テレビの取材陣とヒグマの観測員
に会う。8月3日ころまで大雪はず〜っと天気が悪かったみたいであるが、それ以降毎日
ヒグマを見ているとのこと。
ここから北鎮岳分岐までは緩急溢れる火口沿のコースとなり、途中雪渓を乗り越える
ところもある。分岐にザックを置いてピストン、標高差約100m。北鎮岳(2,244m)へ登る
と風景ががらっと変わり、愛山渓から続く比布岳(ひっぷだけ)、そして切り立った枝
尾根の先の尖峰、愛別岳が望める。下方がずっと切れているため、とても高度感溢れる
峰である。大山の三鈷峰のよう。
分岐まで戻り、再びザックを担いで火口の縁を歩いていく。お鉢の中は硫黄の黄、鉱
毒の青、雪渓の白、ハイマツの緑が交差し、その広大な窪地はヒグマちゃんにとっては
居心地の良さそうなところである。
やはり火口の縁を登り下りしながら中岳(2,113m)を越え、間宮岳(2,185m)へ。照り付
ける太陽の光が砂礫に反射し眩しい。
間宮岳から北海道最高峰(また、燧ケ岳以北の北日本最高峰)の旭岳へピストン。北
方に荒々しい熊ヶ岳を見ながら火山岩質の軽石の多い斜面を下っていく。左手にはなだ
らかなものの雄大な後旭岳がデンと座っている。ここからの旭岳は急斜面を擁す円錐形
でまるで富士山のよう。バックの紺碧の青空に映える勇姿である。
コルから裏旭キャンプ場の小高い丘を上り詰めると、旭岳東面の大きな雪渓にでる。
照り付ける太陽に耐え切れず、雪面を駆け下りる清い流れを口にする。無性にうまい。
雪渓を乗り越える辺りからとてつもない急登がはじまる。地面もザレザレで足場が安
定せず、とてもとても登りにくい。山頂は旭岳ロープウェイが運休中にも関わらず多く
の人で賑わっている。旭岳の西面は爆裂火口で激しく切れており、ず〜っと下方に旭岳
温泉の施設が望める。登ってくる人が豆粒のように見える。ざっと落差1,200m。
山頂の風を充分に楽しみ、来た道を引き返し分岐へ。ここからの火口縁はなだらかと
なり、気付かぬうちに荒井岳、松田岳を越え北海岳(2,149m)へ。北鎮岳、円錐形の凌雲
岳(りょううんだけ)がお鉢越しに望める。
ここからもしばらくはなだらかな丘陵を進む。わかる花がチングルマとエゾノツガザ
クラだけというのが辛い。
白雲岳という岩が積み重なった岩峰を巻く。途中雪渓を越えるが、雪渓の下流が切れ
クレバスのよう。雪渓を越えると緑に包まれた岩石のゴロつく岩場となり、西に傾き始
めた強い日差しも白雲岳で遮られ、涼しい登りとなる。鞍部から白雲へピストン。しば
らく同様のゴロ場であるが、肩まで登ると、白雲の西面が野球場のように平らで広いと
ころが広がる。昔は火口であったところが湿原化したのかな、なんて考えながら、お花
畑の中を詰めると山頂(2,229m)に。今までお鉢の風景に慣れていたが、そのお鉢の南面
は緑深い裾野が広大に広がり、何条にも走る谷沿いに雪渓が多く残っている原風景が広
がる。カムイミンタラ、神々の遊ぶ庭という言葉がしっくりくる。
鞍部に戻って勢いでなだらか〜な山容の小泉岳(2,158m)へ。そしてザックのところま
で戻り、さらに白雲岳を巻きながら白雲岳避難小屋へ。小屋の収容人数は30人ほど。テ
ン場は30張はいけるかな。雪渓が近くにあり、水にも不自由しませんでした。夕方にな
ると雪渓の下部から冷たい空気とともに白いガスが流れ込み、まるで天然クーラーのよ
うです。
大雪は辺りに町がないために夜は漆黒に包まれ、空気もとっても澄んでいるため低い
ところの星もとても良く見え、天の川はまるでガスがかかっているかのよう。流星群が
近づいているからか、流れ星も多く見え満足のいく夜でした。

8月10日(火)
朝焼けの中に、東面がすっぱり切れた広大な高根ヶ原の彼方、西面がすっぱりと切れ
た忠別岳が鎮座し、その奥に雄大なトムラウシ山が望める。
なだらかな下りが続き、鈴を軽快に震わせながら進む。じきに切れている東側眼下に
幾つもの沼が見えてくる。7月中旬から熊出没につき通行止めになる小沼平である。チン
グルマとコマクサの咲く心地よい平原も平ヶ岳の登りまでで、ここからはハイマツブッ
シュとなる。ハイマツなのに背の高さを越え、道もあるが完全にかぶっており、ザック
が引っかかる。ブッシュの中は風も通らず、たまらない暑さに苛まれる。ハイマツ(這
松)なんだから地面を這っていてほしいのにぃ〜と叫びながらそれでも進むとポコを越
え、忠別岳北面の忠別沼が望める。
湖面に写る青空と忠別岳を横目に木道を進むと忠別岳への登りに入る。なだらかでは
あるものの、ハイマツに行く手をはばかれたうえどうしようもない暑さに苦労もひとし
お。それだけに山頂の感激は大きかったです。後で聞いた話ですが、忠別のなだらかな
東面は熊が頻出し、忠別小屋から駆け下りる熊を見ることがあるそう。それだけハイマ
ツで覆われている山なのです。ここからは深く切り込む忠別川の谷越しに化雲岳がのぞ
め、南東の方には遠く石狩岳やニペソツ岳が望める。
南面はガレており急な下り。鞍部に小屋への分岐がある。そこから五色岳への急な上
りは深いハイマツとナナカマドに覆われており、ザックが引っかかる度にへたりそうに
なり、もうヒグマを気にしている場合ではない。それでもハイマツで覆われ展望の薄い
山頂に出たときは手足がシビれてきてぼ〜っとしてきた。やばい!熱疲労の症状だ。急
いで塩を取り出し舐め、予備水を全身にかぶる。木陰で30分ほど休むとなんとか回復。
ふと辺りを見回すと幾つかの小さな沼が姿を出し、いつヒグマが出てもおかしくないと
ころ。ハイマツのなかをトラバース気味に進み化雲岳分岐へ。測量が入っているからか
木道が敷かれているところが多い。ここで乾燥したヒグマのふんを見つける。分岐から
山頂までピストン、旭岳方面が開けている。山頂には遠くからも目立つ岩塔がある。
ここからヒサゴ沼まではお花畑の続く下り。地図には「神遊びの庭」とかかれている
が、お花畑と雪渓が織り成す風景にしばし呆然としてしまう。雪渓の水で体を癒して岩
峰と雪渓に囲まれたヒサゴ沼のキャンプ場へ。水は雪渓からふんだんに取れ、20張はい
ける。一夜の夢を結ぶのに申し分のない静かなところである。 (続く)